2012年10月21日
Coffee Break歴史の書420 T列王記(7) 「彼が立派な人物であれば」(T列王記1章40節〜53節)
民はみな、彼のあとに従って上って来た。民が笛を吹き鳴らしながら、大いに喜んで歌ったので、地がその声で裂けた。(T列王記1章40節)
アドニヤと、彼に招待された者たちはみな、食事を終えたとき、これを聞いた。ヨアブは角笛の音を聞いて言った。「なぜ、都で騒々しい声が起こっているのだろう。」(41節)
彼がまだそう言っているうちに、祭司エブヤタルの子ヨナタンがやってきた。アドニヤは言った。「入りなさい。あなたは勇敢な人だから、良い知らせを持って来たのだろう。」(42節)
ヨナタンはアドニヤに答えて言った。「いいえ。私たちの君、ダビデ王はソロモンを王としました。(43節)
ダビデ王は、祭司ツァドクと預言者ナタンとエホヤダの子ベナヤ、それに、ケレテ人とベレテ人とをソロモンにつけて送り出しました。彼らはソロモンを王の目騾馬(めらば)に乗せ、(44節)
祭司ツァドクと預言者ナタンがギホンで彼に油をそそいで王としました。こうして彼らが大喜びで、そこから上って来たので、都が騒々しくなったのです。あなたがたの聞いたあの物音はそれです。(45節)
しかも、ソロモンはすでに王の座に着きました。(46節)
サア、大変です! アドニヤ本人は、ソロモンを出し抜いて王になったと思い、アドニヤを囲む人たちは新しい王に招かれて、自分の前途に期待していたはずです。ところが、もっと権威のある方法で、ソロモンが王として選ばれ即位したと聞くのです。
およそ「権力」とは無縁の私は、これほどドラマチックな場面にいたことはありませんが、エブヤタルの子ヨナタンの知らせを聞いた人々の、驚きの様子、白けた顔、おびえたさまが容易に浮かんできます。
そのうえ、王の家来たちが来て、『神が、ソロモンの名をあなたの名よりも輝かせ、その王座をあなたの王座よりもすぐれたものとされますように』と言って、私たちの君、ダビデ王に祝福のことばを述べました。すると王は寝台の上で礼拝をしました。(47節)
また、王はこう言われました。『きょう、私の王座に着く者を与えて下さって、私がこの目で見るようにしてくださったイスラエルの神、主はほむべきかな。』」(48節)
すると、アドニヤの客たちはみな、身震いして立ち上がり、おのおの帰途についた。(49節)
★★★★★
人間は弱い者です。保身は必ずしも卑怯なことではなく、本能的な生存本能の発現です。アドニヤ側に招待されていい気分だった人たちが、新王ソロモンから睨まれるかもしれないと恐れて、そそくさと戻って行ったとしても当然です。
アドニヤもソロモンを恐れて立ち上がり、行って祭壇の角をつかんだ。(50節)
首謀者のアドニヤ自身が、すっかりひるんでしまったようです。幕屋の聖所に入って行って、祭壇の角をつかんだと言うのです。幕屋にある祭壇の角には、赦しのためのいけにえの血が塗られた(レビ記4章7節、18節)ので、そこにしがみついたアドニヤには手がかけられなかった。(新実用聖書注解)わけです。
アドニヤが、「ソロモン王がまず、このしもべを剣で殺さないと私に誓って下さるように」と言って、祭壇から離れなかったので、それを聞いたソロモンは約束を与えるのです。
「彼が立派な人間であれば、彼の髪の毛一本でも地に落ちることはない。しかし、彼に悪があれば、彼は死ななければならない。」(52節)
それから、ソロモン王は人をやってアドニヤを祭壇から降ろさせた。彼がソロモン王の前に来て礼をすると、ソロモンは彼に言った。「家に帰りなさい。」(53節)
なんだか、とてもお粗末な最後ですね。お坊ちゃん王子アドニヤの腰砕けの様子に、思わず笑いそうになります。
非常な美男子で(今ならイケメン?)父親からただの一度も「あなたはどうしてこんなことをしたのか」と、叱られたことがないあまーい王子様は、こうして窮地を逃れるのですが、自分がどれほど深刻な過ちを犯したのか、わかっていませんでした。
次の章では、その甘さで、たちまち、身を滅ぼすのです。
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